Story 16愛犬の墓
居留地時代の古写真から、長崎に来航した外国人たちがペットとして犬を連れてきていたことが確認できる。それは、ラブラドールレトリーバー、スコティッシュテリアやアイリッシュセッターなど、当時の日本人には珍しい外来種も含まれていた。その結果、様々な「洋犬」が長崎やその他の開港場経由で日本全国に広がったと考えられる。
慶応元年(1865)、居留地在住の外国人たちが休養を楽しむために長崎港外のねずみ島へ出かけた際に撮った有名な集合写真がある。それをよく見ると、イギリス商人ウィリアム・オルトの膝の上にヨークシャーテリアが写っている。リンガー家は明治36年(1903)から南山手14番地の旧オルト住宅に居を構えたが、家族の写真アルバムにも愛犬がたびたび登場している。現在の旧オルト住宅(グラバー園内)の前庭の端っこに小さな墓碑が木陰に隠れるように立っている(写真)。碑文には、「ミキ」と「リンジャ」の名前と「昭和3年4月12日」の日付だけが刻まれている。それ以外の記録はまったく見当たらないが、同地に住んでいたフレデリック・リンガーの長男一家が亡き愛犬を偲んで設置したものであろう。
しかし、ひとつ腑に落ちない点がある。リンガー氏に墓碑の設置を任せられた日本人従業員による聞き違いという可能性もあるが、「リンジャ」は「レインジャー」(Ranger)の間違いではないかと思われるし、碑文のカタカナ表記と日本年号は謎のままである。