Story 42キリンとグリフィン
旧グラバー住宅の玄関に入ると一対の狛犬が目を引く。東京のグラバー邸で撮影された写真にこの狛犬が写っていることから、トーマス・グラバーが東京の自宅に置いていたことが確認できる。説明板には、「この狛犬は今日のキリンビール社のラベルのもとになった」と書かれている。
トーマス・グラバーとその仲間は明治21年(1888)、キリンビールの前身会社であるジャパン・ブルワリー・カンパニーを横浜で創設したことも、グラバーが現在も使用されているラベルを創業の翌年に提案したということも史実である。しかし、キリンを描いた画家の名前も、ビールのシンボルにこの奇獣を選んだ経緯も不明。ましてや、狛犬がモデルになったことを示す証拠はどこにも見当たらない。グラバーが狛犬ではなく、麒麟とよく似た西洋の奇獣「グリフィン」からラベルのヒントを得たと考えられる。中国の神話に現れる霊獣である麒麟は、体型と顔はそれぞれ鹿と龍に似て、牛の尾と馬の蹄を持つ。一方、グリフィンはライオンの胴体に鷲の頭と羽を持っており、「西洋版の麒麟」と呼んでも差し支えないだろう。
イギリスにおけるビール業界の老舗であるフーラー社は、グラバーが子供のころからロンドン郊外で営業しており、グリフィンを創業当初からロゴマークに使用。現在でも「ロンドン・プライド」などイギリスで最も有名なビールをつくり続けている。今や世界中に知られるキリンビールのラベル。麒麟がラベルに登場した経緯に関するさらなる研究が期待される。