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Story 64旧オルト住宅の噴水

 イギリス人商人ウィリアム・オルトは、南山手14番地において、長崎居留地では最も立派な個人住宅を建てた。現在グラバー園に保存されている「旧オルト住宅」である。施工を行ったのは大浦天主堂の建設などで知られる天草の棟梁・小山秀之進。建設は1865(慶応元)年に始まり、完成させるまでにおよそ2年の歳月を要した。

 外国人建築家によるフィートとインチで表わした平面図には、後から筆で日本式の寸法が書き加えており、言葉と建築様式の違いを超えた共同作業の様子がうかがえる。同住宅は、天草の砂岩でできたベランダの石畳や基礎、石積みの外壁、ベランダを巡るタスカン様式の列柱、正面から突き出た破風造りのポーチや日本瓦で覆われた屋根など、和洋折衷のデザインとなっている。

 その中で特に目を引くのは、家の前で建設当時から残るイタリア風の噴水である。噴水の起源は、メソポタミア文明だとされている。ローマ神話にも「ユトゥルナ」という噴水・井戸・泉を司る女神がいるので、古くから日常生活の中に噴水が存在していたようだ。ローマの「トレヴィの泉」は代表例だが、噴水は今もイタリアを始めヨーロッパ各地に見られる。 日本で最古とされるのは1861(文久元)年に造られた金沢・兼六園にある噴水である。

 長崎では、1878(明治11)年版の「長崎諏方御社之図」に描かれた噴水は長崎公園に現存しているが、幕末の古写真にも写る旧オルト住宅前の噴水こそ長崎で最古のものと思われる。ところで、これら初期の噴水は動力ではなく、高低差を利用した位置エネルギーのみで水を噴き上げるのである。

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