Story 4キリン、狛犬とグリフィン
旧グラバー住宅の温室の中を通ると一対の狛犬が目を引く。その説明板には、「この狛犬は今日のキリンビール社のラベルのもとになった」と書いてある。トーマス・グラバーとその仲間は明治18年(1885)、キリンビールの前身会社であるジャパン・ブルワリ・カンパニーを横浜で創設したのは確かだが、ビールのシンボルに麒麟を選んだ経緯は実は不明である。現在のラベルのデザインは明治22年(1889)に登場し、麒麟はライオンのような黄色のたてがみと、わき腹に沿って、銀色に光るしま模様が施されていた。麟麟の顔のまわりを一周して、たてがみの中へと消えて行く大きな黄色の口ひげも加えられたが、これは太い口ひげをトレードマークにしていたトーマス・グラバーの貢献に敬意を表してのことだと伝えられている。
しかし、それが事実であったとしても、麒麟がそもそもなぜ採用されたかはわからない。グラバーが自宅の狛犬でなく、ロンドン郊外のチズウィックで1845年からビールを醸造していたフーラー社のロゴからヒントを得たという可能性がむしろ高いと思われる。この会社はシンボルマークに麒麟と同じような伝説の奇獣であり、ライオンの胴体に鷲の頭と羽を持つ「グリフィン」を使っており、今でもイギリスで人気のある「ロンドンプライド」などのビールを作り続けている。